本学は「国際文化交流」という立場から、さまざまな文化的側面への多様なアプローチを図っております。この度は「食」を、味覚、食の獲得、摂取、分配ととらえることで、生物、歴史、文化、環境、国際関係、経済、宗教、芸術など、多岐にわたる学問分野の可能性を広げ、さらなる交流の深まりを期待し、産官学連携教育プロジェクトを推進することとなりました。
「食」は、人間それ自身の問題について、考えを深めるテーマでもあります。あらゆる観点からこのプロジェクトは、本学にとどまらず、社会に大きく貢献するものと確信しております。
この満ち足りた時代において「食」はあって当たり前の存在であり、ともすれば自分が今何を口にしているのか、どんな味がしているのか、意識されない場合すらあるのではないでしょうか。「食」が単に空腹を満たすための手段となり、さながら「餌」のごとく消費されるケースも多々見聞します。
そのような危惧から食教育の重要性が叫ばれているものの、多くは知識の押し売りや表層的な情報の提供にとどまり、「食」の辺縁に隠されているさまざまな学びの機会、知恵や伝統に培われた奥深さを感じる機会が忘れられているように感じます。
これまでの「食を教える教育」を見直し、「食を感じる教育」へ。さらには、その先の「食を意識する教育」へ。「食」に対する感謝の念や自然観、味わいや香りに対する五感を耕しながら、生きる力、考える力、文化や未来を創造する力を育成したい─。
私たちは見失われつつある日本人の感性を見つめ直し、「食は命なり、食は社会なり、食は地球なり」を意識できる人間教育を目指します。
食教育に関しては、さまざまな領域や立場から多様な議論がなされていますが、その意味と位置づけにおいて極めて重要性の高い「味覚教育」に関しては、本国では基軸となる教育システムが確立せず、現在に至ります。
人間の五感を活性化させ、人間力の復活をもたらす源泉となる食教育、それが私たちの考える「味覚教育」です。その前提にはスクー ルガーデン(学校菜園)があり、管理・運営を通じて探究心を開発・育成し、さらには「食」と愛情、すなわち家庭・環境・生産者等への想いを育みます。「味覚教育」とスクールガーデンを通じた一連の活動と成果は、既存の教育のあり方のみならず、家庭、地域社会、生産・流通・消費(購買行動=食品の選別方法や評価)、あるいは環境問題等々、さまざまな領域に大きな変革をもたらす起爆剤となるでしょう。
本プロジェクトが、日本における新たな味覚教育研究の議論を巻き起こし、その具体的展開の出発点となることを祈念します。
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