日伊共同シンポジウム&セミナー・ラボラトリー 食から耕す未来と文化 -フードコンシャスネスとエデュケーショナル・バリュー・チェーン-

2012年2月11日~15日、学習院女子大学フードコンシャスネス実行委員会は〈Project for Food Consciousness〉(食を意識する教育推進事業)の一環として、シンポジウム、セミナー、ラボラトリーを開催しました(後援:文部科学省・農林水産省・イタリア大使館)。

石澤靖治学習院女子大学長は開催挨拶で、「国際文化交流において有用となる人材育成に努める本学が、"食"という人間の根本に迫る分野を鑑みた時、イタリアはトスカーナ州に大変興味深い教育機関を見出した」と、イタリア味覚教育センターとの協定合意、シンポジウム開催に至った経緯を解説。文部科学省食育調査官・森泉哲也氏、イタリア大使館一等参事官ダニエーレ・ボズィオ氏の来賓挨拶に続き、同センター代表アレッサンドロ・ヴェントゥーリ氏とルイーザ・ペリス氏が基調講演を行いました。以下、概要をお伝えします。(写真:安彦幸枝)

日伊共同シンポジウム「食から耕す未来と文化」(2012/02/11 13:00~18:00)

■ 基調講演「食への意識が未来を変える」

「感覚・味覚教育の重要性」ルイーザ・ペリス氏:食に対する意識はその国の社会を投影している。グローバリゼーションにより人々は季節感や地域性を失った食物を疑念なく受け入れているが、そういう社会では人々は体のよい顧客に過ぎない。子どもたちには正しい食を選ぶ感覚を備えさせる必要がある。それには五感を働かせる教育が必要。

「味覚教育センターの活動と地域プロジェクト」アレッサンドロ・ヴェントゥーリ氏:私たちは1990年代から新しい食教育の模索と検証を続けている。近年の成功例は学校給食に地産地消・郷土食を導入するプロジェクトだ。行政・学校・地域の連携が欠かせないが、結果として食生活の改善・雇用機会の創出・生活の向上をもたらした。

モデレーター江口泰広運営委員長(学習院女子大学教授):学校での食教育が家庭を動かし、消費行動が変われば、大きな社会変革が起こる。地域の生産者や生産物を守り、地域経済の活性化につながる。それにはまず食教育者の意識改革が必要。私たちはこのエデュケーショナル・バリュー・チェーン(教育的価値連鎖)の具現化を目指す。

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■ 第1部「味覚教育の教育的価値」

イタリア味覚教育センターと共に来日したトスカーナ州の行政官が事例を発表しました。

ケーススタディ① 味覚教育の先進州トスカーナ州の取り組み
トスカーナ州農政・経済開発省行政官シモーネ・タルドゥッチ氏:州の予算のうち社会保障に充当する80億ユーロの70%は医療費補助である。2002年、州は「食のガイドライン」を制定し、250万ユーロの助成金で学校給食に有機食材と郷土食を導入した。さらに農政・経済開発省は200万ユーロを拠出し、学校など教育機関と地元生産者の交流を促している。将来の医療費削減・生産者保護・農業従事者育成にかける費用を考えれば、味覚教育は少ない予算で多大な効果を生む価値ある取り組みである。

ケーススタディ② トスカーナ州ヴィアレッジョ市の取り組み「おいしい学校プロジェクト」
ヴィアレッジョ市教育部門担当官ドナテッラ・デル・カルロ氏/同市教育プロジェクト担当官カルラ・フランキ氏:地中海に面したヴィアレッジョ市は、イタリア教育省およびトスカーナ州農政・経済開発省の支援により、味覚教育事業「おいしい学校プロジェクト」推進5年目に入った。「友だち農場」と呼んでいる地元生産者、給食サービス会社、教育委員会、公立の小中学校、父母とのローカルネットワークが構築でき、魚嫌いの解消やローカロリー食の摂取など成果を上げている。

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■ 第2部パネルディスカッション「食教育の新しい視点―食を教える教育から食を意識する教育へ―」

江口泰広運営委員長がモデレーターを務めたディスカッションは、イタリア味覚教育センターと品川明実行委員長(学習院女子大学教授)が会場からの質問に答える形で進行。冒頭で品川明実行委員長は、「食の本質をとらえるには"ありがとう・いただきます・ごちそうさま・もったいない"の4つの心が大切。これが食を意識する教育につながる」とその重要性を説きました。以下、ハイライトをお伝えします。

Q.日本人の早食いは学校給食の影響があるのでは。給食に必要な時間は何分間か。

ペリス氏:最低でも1時間。給食は栄養摂取できればよいというものではない。脳に満腹感を与え、他者と楽しい時間を共有しながら社会性を育てる時間でもある。

江口:給食の1時間がエンターテインメントであれば、外で体を動かしたい盛りの子どもたちの関心も引き付けられるが、先生には相当な技量が求められるのではないか。

文部科学省・森泉哲也氏:どんな教科であれ、1時間授業の年間シラバスを作るのは教師にとって大変な作業であり、また相当な技量が必要だ。個人の意見としては、教師は「役者」であれと思う。「役者」になれる教師は子どもと共に育つ。ただし、その教科を教師自身が好きでないと、役者を演じても生徒は興味を抱かない。

ペリス氏:同感である。しかし、教師は「独演者」である必要はない。教師は指揮者のような存在であり、生徒の嗜好やそこに至ったプロセスを個々に把握しておく必要がある。

ヴェントゥーリ氏:教師自身に食べものへの拒否感情があるとうまくいかない。私たちが教師から教育をしているのはそのためだ。

ペリス氏:関係省庁は教師への味覚教育を義務化してはどうか。

農林水産省・三富則江氏:農林水産省では児童の農業体験授業を推進しており、農業体験は初めてと感動する先生もいる。近年は教育学部の学生に、食教育や生産者訪問に意欲的な姿が見られる。

品川:子どもたちの発言や発見に共感することが大切だ。そういう先生を育てたい。

江口:教師はエンターティナーである必要はない、愛のあるオーガナイザーであれということが分かった。

Q.イタリア味覚教育センターが提唱している「味わう権利」とは何か。

ヴェントゥーリ氏:私たちにはより多くの食べものを知る、つまり味わう権利があり、子どもたちには選択肢を増やす機会となる。食べ慣れない食物に警戒心を抱くのは、感覚記憶の幅が狭いからだ。

ペリス氏:子どもたちは教師や父母を媒介に「味わう権利」を得る。だからこそ大人にも味覚教育が必要となる。

品川:口にした食べものはどのようにおいしいのか、おいしくないのか、感覚的な食教育は自己の表現能力を鍛える機会にもなる。

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児童向け食と感覚の体験型授業「味覚のABC ―甘くて苦い―」
(2012/02/12 10:00~12:00)

イタリア味覚教育センターによる日本で初めての公開授業を受講したのは、小学3~6年生の児童24名と参観の68名。中野美季実行委員(学習院女子大学講師)の通訳と解説で、子どもたちは目の前に出された食材をまず見て、次に匂いをかいで、色や形状・香りから由来や味わいを想像。さらに舌に乗せて自分自身の感覚を確かめました。使用した食材は砂糖・塩・レモン・粉末コーヒー・グルタミン酸、そしてトスカーナ産のハチミツ。授業後はペリス氏が参観者に講評を行いました。

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「エデュガストロノミー ―学校給食で拓く地域食材プロモーション―」
(2012/02/12 13:00~15:00)

学校給食に地域食材を導入する教育的効果について、トスカーナ州農政・開発省、同州ヴィアレッジョ市、ヴィアレッジョ市の民間給食サービス会社2社、そして東京都荒川区立汐入小学校宮島則子氏が事例を発表。モデレーターを江口泰広運営委員長(学習院女子大学教授)が務め、宮崎大学ほか全国の大学で食教育に携わる教員、東京農業大学や栄養専門学校の学生ら参加52名が議論に参加しました。

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イタリア味覚教育センター「味覚教育教師養成講座」
(2012/02/13・15 10:00~17:00)

日本初の公開となったイタリア味覚教育センターによる成人向け講座のダイジェスト版で、13日は32名、15日は35名が受講。中野美季実行委員(学習院女子大学講師)の通訳と解説により、受講者は自分に備わっている4つの感覚、VISTA(視覚)・TATTO(触覚)・OLFATTO(嗅覚)・GUSTO(味覚)の使い方を学びました。使用した試料はビスコッティ、エッセンシャルオイル、ジュース、エキストラバージンオリーブオイル、チーズ、ハチミツなど。

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Umami(うま味)コンシャスラボラトリー
(2012/02/14 10:00~11:30)

2011年10月にイタリアで披露した、学習院女子大学フードコンシャスネス実行委員会オリジナルプログラム。受講した34名は、水溶液を使った官能検査、ダシが違う味噌汁、下処理方法を変えたアサリの試食により、自身の味覚を再確認しました。講師を務めた品川明実行委員長(学習院女子大学教授)は「自分の味覚は正しかったとか間違っていたとか、正否を求めることが目的ではありません。自分が好む味覚は何だったのか、確認できればいい」と解説。

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古代ローマ時代の幻の魚醤"ガルム"体感ラボラトリー
(2012/02/14 15:00~17:30)

古代ローマ時代にスペインから今のリグーリア州ルーニ町に伝わり、ローマ帝国滅亡とともに絶えた魚醤"ガルム"(Garum)。その製法や効能を著した文献をひもとき、現代に復活させたリグーリア州観光プロモーション局職員アンジェロ・フェッラッチョーロ氏が、研究成果を発表。受講した35名は、氏がイタリアから持参したガルムをテイスティングし、さらに野菜やマグロの刺身など食材との組み合わせ、日本のしょっつるとの違いを体感しました。

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